『プロレタリア音楽と詩』第一巻第六冊

 


 『プロレタリア音楽と詩』 第一巻第六冊 
昭和5年8月25日納本
昭和5年9月1日発行
発行所 紅玉堂書店
25銭

以前に取り上げた『プロレタリア音楽と詩』の6巻目にあたる、1930年9月号です。

その際に第一年第五号(1930年8月号)で終刊したと書きましたが、翌号を入手したので紹介します。

なお、他の号は「第一年第◯号」と「年」や「号」で表記されているものもありますが、今号は「第一巻第六冊」と「巻」「冊」が使われています。

1982年出版の『プロレタリア詩雑誌総覧』では「第一年第五冊まで確認」、2012年出版の『コレクション・都市モダニズム詩誌 第20巻 音楽と詩』では「1930年8月に終刊、全五冊」とされていましたが、第一巻第六冊(九月号)も出版されて現存しているという情報も聞いたことがありました。この度、その現物を確認することが出来ました。

『コレクション・都市モダニズム詩誌 第20巻 音楽と詩』によって、第一年第一冊から第一年第五号の主要な部分は復刻されていますが、そもそものデータが少ない雑誌で、それぞれが発禁になっていたかどうかも分からず、今号が幻になっていた理由も、発禁によるものなのかどうかなどは不明です。


他の号と同じく、音楽雑誌なので楽譜が多く掲載されているのが特徴です。
どれも『日本の革命歌』に掲載されていないものばかりです。
ちなみに『日本の革命歌』の著者が入手出来たのは第一年第四冊(七月号)と第一年第五号(八月号)のみと思われます。
なお同書で「女工哀歌」や「愛媛県製糸女工の歌」などの引用元が『プロレタリア音楽と詩 一巻七号』と記載されているのは、明らかに第一年第四冊(七月号)の誤りです。『日本の革命歌』にはこういう細かい間違いが多く見られ、注意をする必要があります。


「九十九人」
詩 ローズ・イー・スミス
曲 赤松泰
訳 白須孝輔

ローズ・イー・スミスが誰なのかについては書かれていません。検索をするとイギリス共産党の初期メンバーにRose Smith(1891〜1985)という人物がいたようで、年代的には合いますがその人かどうかは不明です。この人物の存在は知りませんでしたが、Wikipediaを読むとかなり凄い人生だったようで面白いです。


「プロレタリアの歌」
詩・曲 長澤生


「石材採掘工の唄」
詩 高澄夫
曲 赤松泰

同じ題名で同じ詩の「石材採掘工の唄」が前号の第一年第五号にも載っていますが、そちらは中村みね子による作曲で、こちらは赤松泰により別の曲がつけられています。







「飴ちょこブルジョア」
詩 槇本楠郎
曲 内田英

この詩は、同じ紅玉堂書店から出たプロレタリア童謡集『赤い旗』に掲載されていました。そちらでは「コンコン小雪」「梟と燕と鶏」「一寸法師」の3つだけに曲が付けられており、「飴ちょこブルジョア」は詩のみが載っています。

「聴け鬨の声」
詩 エイチ・エス・ソールツ
曲 露木次男
訳 白須孝輔

露木次男はプロレタリア音楽同盟の委員長をしていた人物。運動から離れたあとは1934年に秋田県立本荘高等女学校に音楽教諭として赴任し、以降は秋田県内の中学教諭や大学講師、大学教授などをつとめ、1987年には県の文化功労者に選ばれています。『昭和の作曲家たち』(秋山邦晴著 みすず書房 2003年4月25日発行)では、同盟時代を否定するような発言を残しています。


「市電争議から(草津節)」

『日本の革命歌』で紹介されている「裏切り者の唄」、「市電ストライキ小唄」と同じ詞で構成されていますが、「筧正ちゃん反動分子」から始まる2番はこちらでしか確認出来ません。なお、筧正ちゃんというのは当時の鉄道省の筧正太郎局長のことです。

「星製薬ストライキの歌」


「作曲を募る(第一回)」と題して、詩が4つ載せられています。
「規定にしたがって」とありますが、その規定はどこにも載っていません。
〆切が9月5日、発表は九月号紙上とのことですが、この号が9月1日発行の九月号であり、翌号の出版状況や存在も不明なため、実際に審査や発表が行われたのかは分かりません。


「最近の児童文学の収穫」と題した、プロレタリア作家の本庄陸男による『赤い旗』についての評論が載っているのも、今号の注目すべき点です。
『赤い旗』について、「児童の生活に正しき方向と真理を指示するもの」、「新しきプロレタリア教育の樹立を使嗾するもの」としています。
1993年から1999年にかけて、影書房から『本庄陸男全集』が全5巻で出版されています。もとは全6巻の予定だったのが、編者3名のうち2名が亡くなり、5巻で完結させたそうです。この評論はその全集にも収録されておりません。540ページに「本庄陸男には昭和三年から六年にかけて多くの教育評論がある。(略)それらの教育評論については、本全集第六巻に収録が予定されている」とあり、あるいはこれも収録の可能性があったかもしれません。
『本庄陸男全集』の第五巻に収録されている教育論集「資本主義下の小学校」に「童謡の問題に就いて」という章があり、ここでも『赤い旗』についてこう述べています。
「開いて見ることにより、自分の最近の理解の裏付けを、実際に見出したよろこびに到着したのである」「かゝる新しき意識の上に述べられた童謡論と、その童謡とは、初めてであるから、少くとも童謡を今日語らんとするものは、一度目を通す必要がある」
23貢にも及ぶこの童謡問題だけでなく、「資本主義下の小学校」は当時の学校教育の諸問題を取り上げており、一読の価値があります。

コメント

  1. これも非常に貴重な資料ですね。
    翻訳曲の原詩について気になったので調べてみたところ、そこから色々なことがわかりました。

    まず、タイトルの『九十九人』と作詞者とおぼしき“Rose Smith”を合わせて“Ninety and Nine song Rose Smith”と検索すると、原詩がヒットしました。
    https://www.musicanet.org/robokopp/usa/90and9.htm
    作詞者は Rose Elizabeth Smith、確かに「ローズ・イー・スミス」です。
    日本語版では新たに曲が付けられたようですが、原詩は同名の讃美歌(日本では『九十九のひつじは』という題名で知られているようです)の節で歌われたもので、内容もそのパロディーになっています。
    https://hymnary.org/text/there_were_ninety_and_nine_that_safely
    https://dl.ndl.go.jp/pid/941747/1/260

    元の讃美歌は新約聖書にある「羊飼い(キリスト)が、すでに安全な場所にいる九十九匹の羊(すでに救済された多数)をさしおいてでも一匹の迷った羊(少数の罪人)を救うために苦労をする」という、いわゆる神の恩寵を説いたイエスのたとえ話を歌うものですが、この替え歌は「一人(少数の資本家)のせいで九十九人(多数の労働者)が苦しんでいる→だからその仕組みを変えよう」という内容になっています。
    つまり「九十九と一」という同じ数字の組み合わせを使っているものの、その意味と配置が真逆になっているわけですね。

    この替え歌についてさらに調べると、こんなものが見つかりました。
    https://asduniway.org/%E2%80%9Chome-and-mother%E2%80%9D-september-7-1914/
    Abigail Scott Duniway というアメリカの婦人参政権論者を紹介したサイトで、彼女が1914年9月7日に行った「家庭と母」という演説にこの替え歌が引用されています。
    その注釈に「この歌は「不満の炎を煽るために」編纂されたI.W.W.(世界産業労働組合)の名高い“Little Red Song Book”(初版1909年)に、1916年頃収録された」とありました。
    調べると、1916年版のI.W.W.の歌集を見つけられました。
    https://www.sos.wa.gov/library/research-collections/classics-washington-history/songs-workers-joe-hill-memorial-ed
    19~20ページに“THE NINETY AND NINE.”が載っています。

    さて、このI.W.W.の歌集を読んでいると、39ページに“HARK! THE BATTLE-CRY IS RINGING! - By H. S. SALT”が見つかりました。
    「エイチ・エス・ソールツ」による『聽け鬨の聲』の原詩です。
    ネット上にもテキストがあったのであわせて提示します。
    https://www.musicanet.org/robokopp/usa/harktheb.htm
    原詩は15世紀後半の薔薇戦争に起源をもつ行進歌“Men of Harlech”(ハーレックの男たち)の節で歌われるものだったようです。

    作詞者の“H. S. Salt”を検索すると、Henry Stephens Salt というイギリスの作家が出てきました。
    文明の倫理的基盤に隠れた暴力性に反対する立場から動物の権利・菜食主義を唱え、かのマハトマ・ガンジーにも影響を与えるなど、なかなか興味深い人生を送った人物のようです。
    https://en.wikipedia.org/wiki/Henry_Stephens_Salt

    最後に、ふと気づきましたがこの歌集の9ページにある“WORKINGMEN, UNITE!”は『日本の革命歌』の補遺に収録されている「労働者よ、結束せよ」の原詩ですよね。
    『日本の革命歌』では誤って「インターナショナル逐語訳」としていますが、本物の英語版インターナショナルは3~4ページにありますし、聴いてもわかるように全く別の曲です。
    https://www.youtube.com/watch?v=ANq1v3EItIA
    それにしても、この歌集の他の歌を見ると讃美歌や当時の流行歌、さらには米国の国歌や「ティペラリー」の節を借りたものなど、どれも替え歌ばかりです。
    古い時代の労働歌や革命歌に既存の歌の借用が多いのはどこの国でも同じようですね。

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