『禁止せられたる社会主義宣伝歌(自大正七年至昭和三年)』
特別高等警察資料 第六集
昭和5年1月24日発刊
特高警察が社会主義宣伝歌を収集した『左翼右翼宣伝歌調』と同様のものですが、こちらは2年遡った大正2年からのものです。『左翼右翼宣伝歌調』はしっかりと製本された「本」ですが、これは藁半紙を束ねてホチキスで留めただけです。そのために最終頁が欠落していて、これがとても残念です。
書き加えられた情報によると、沖縄県特別高等警察課から、知事・警察部長・検事正・那覇地方裁判所長・沖縄連隊区司令官・県下各警察署長という、当時の主な当局のもとに発送されていることが分かります。
曲目は以下の通りです。(下線)は歌い出し部分です。
・革命歌(嗚呼革命は近けり 起てよ白屋襤褸の児)
・露国革命歌(アジアに続く北欧の)
・解放歌(模範工場の温情主義)
・デモクラシーの歌(乃公は乃公だが世間の人は)
・労働歌(貪婪飽くなき資本家の)
・暁民の歌(我等は暁民自由の子)
・革命行進歌(革命今や近づけり 見よ北欧に西欧に)
・借家人同盟行進歌(昔丹波の大江山)
・歌(我等は許さず人類の 自由を無視する虐政を)
・歌(ワシントンの譜)(吾等何時まで屈せんや)
・散会の歌(1〜3略 暴には暴を以てせよ)
・散会の歌(見よ官憲の圧迫を)
・革命デカンショ節(学問する身と革命党は)
・革命歌(泣いて別れた学の友よ)
・歌(反逆の血を身に受けて)
・新革命歌(一)(噫革命は近づいた 愈々時は)
・新革命歌(二)(噫我愛する同胞よ 伝統茲に三千年)
・水平歌(あゝ千年の古きより)
・鐘ヶ淵紡績女工の歌(あれ見よあれ見よたらり)
・歌(暴力禁制の此大御代に)
・農村革命歌(無智と笑はれさげすまれ)
・革命歌(赤旗一度破れては)
・労働歌(白虹天を貫きて)
・労働歌Ⅰ(行こうか工場へ もどろか寄宿)
・労働歌Ⅱ(どんらんあくなき資本家の)
・水平歌(嗚呼解放の旗高く)
・ぶちこわせ(いざやっつけろ喰ひつけ)
・赤旗の歌(民衆の旗赤旗は)
・革命安来節(春が来ようが冬寒かろうが)
・歌(世は文明に進めども)
・深しみの深き日よ(ママ。実際は「悲しみの深き日よ」)(東雲のあけぬまに)
・インターナショナルの歌(起て呪咀を烙す)
・京浜地方大震災(ひとつしんぱんこのたびは)
・吾党の唄(天は許さじブルジョアの)
・枯すゝき(俺は果敢ない革命児)
・アナアキストの歌(革命の旗黒旗は)
・流浪の旅の歌(流れ流れて落ち行く先は)
・分らない歌(あゝ分らない分らない)
・ろうどう運動ももたらうの歌(ももからうまれた)
・もしもしかめよの歌(もしもしかめよ)
・らっぱ節(貴婦人の頭に光るは)
・復讐の歌(亀戸の森夜は更けて)
・宣伝歌(小作百姓の戦術を)
・労農党宣伝歌(一致団結赤旗立て)
・労農ロシア(都の真中千代田の森に)
・告別の歌(噫々我が愛する同胞よ)
・朝鮮革命歌(邦訳)(吾等は何時迄屈するや)
・黒殺の歌(復讐の剣胸に秘め)
・宣伝歌(ワシントンの譜)(黒旗高く打ち振って)
・弾圧の斧(弾圧の斧ひらめきて)
・東京青年同盟の歌(同志よ固く結べ)
以下欠落
『左翼右翼宣伝歌調』よりも曲数は少ないものの、そちらには掲載されていないもの、つまり、『日本の革命歌』にも掲載されていないものが複数確認出来ます。
おそらく新発見と思われるので、以下に載せておきます。誤字や脱字と思われる部分も全てそのままです。
「水平歌」の4番
生命力と精神の 力は軈て水平の
自由の叫び より正々堂々と
三百万の同胞は 凡ての血潮呼び醒まし
「宣伝歌」(大正15年4月12日禁止)
小作百姓の戦術を 分らぬ奴らに見せてやれ
飽食暖衣の地主奴に マッチの威力を見せてやれ
飽食暖衣のブルジョアの ✕✕✕がみにくけりゃ
腕の覚えたツルがある 汚れた世界の果までも
赤い✕✕で染めてやる 瓦斯も電気も✕めてやれ
俺等が双腕貸さないときは 汽車も電車も自動車も
動くか奴等に見せてやれ 今日は飽迄俺等の日だぞ
マルやクロの理論を抜いて 宣言などの形式やめて
たゞ✕✕に訴へろ
当時はまだボルシェビキ(マル)とアナキスト(クロ)の共闘の余地があった時代ということが分かります。
「労農党宣伝歌」(大正15年12月22日禁止)
一致団結赤旗立て 進め小作の勝ちいくさ
プロレタリアの赤旗見れば 鎌が光るよ赤旗なびく
今日は小作の勢ぞろひ 杜の野道に赤旗つゞく
小作争議か野たいまつ ぢ虫つまやこそ米麦不作
地虫駆除すれや不作なし 地虫駆除して田畑肥やせ
豊年祭に罪はない プロレタリアの勝目は一つ
力あはせて押すばかり 労働してさへ食へない時に
遊んで食ふとは生意気な 遊んで食ってるおかたもあるに
働く小作が何故食へぬ
(中略)
青い服着て赤旗立て 今日はメーデーの勢ぞろひ
おまへサボルカわしゃストライキ いつも揃ふて示威運動
何をくよくよ心配するか かんがへつくまでストライキ
(中略)
今日はブル奴の天下じゃけれど 明日は天下をプロが取る
労働農民党の赤旗守れ 燃ゆる火の旗血染旗
なんとも理解のし難い内容です。出だしの「一致団結〜」という部分は「農民組合草津節」や「ドンドン節」にも見られます。何らかの農民歌と、労農党の歌が混ざってしまっているようにも感じられますが…。譜は不明です。
「労農ロシア」(大正15年12月1日禁止)
(一)
都の真中千代田の森に そびゆる赤旗我等が理想
吾等が日頃の抱負を知るや 革命の精神共産の理想
輝く我等が赤旗を見よや モスコーモスコーモスコー
(二)
東西古今の革命の潮 一つに渦巻く労働ロシア
大なる理想を捧げて立てよ レーニンの思想を極り知るや
やがては共産の理想のかげは 天上天下を真赤に染める
モスコーモスコーモスコー。
明らかに早稲田大学の校歌の替え歌です。その後のロシア、現在のロシアを知る我々から見ると、なんとも皮肉な歌詞です。
「朝鮮革命歌」(邦訳)(大正15年12月11日禁止)
(一)
吾等は何時迄屈するや 自由を無視する暴政に
十三道の血は躍る 茲に勇敢なる革命児
(二)
暴力に報ゆる暴力の ダイナマイトを手に持ちて
一度起せ同胞を 茲に勝負は定らん
(三)
勝利を告ぐる民衆の 凱歌の声は山に響き
南川北嶽に赤旗立て 祝賀せむ哉革命を
朝鮮のどういう団体の歌かという情報や、譜など全て不明です。
「黒殺の歌」(昭和2年4月12日禁止)
(一)
復讐の剣胸に秘め 燃ゆる憎悪を抱きしめ
帰らぬ過去よりいざさらば 生の歓喜は夢と醒め
ギロチンに舞ふ黒蝶と 逝きし同胞を懐ひつゝ
多恨の我は街を行く
(二)
見る黒烟は濛々と 天柱を焼き地上匍ひ
虚無激風黒々と 処女は街にのたうちて
創造の花断ち切られ ✕✕✕の森に死屍は飛ぶ
『日本の革命歌』に「多恨の我は町へ飛ぶ」というアナキストの歌が紹介されています。その4番とこの2番が似ていますが、1番については全くの別物です。「多恨の我は町へ飛ぶ」は、「ブレドー旅団」の譜とのことで、「黒殺の歌」も合わせて歌ってみたところ、1番は譜に乗りますが、2番は1節足りません。
「宣伝歌」(ワシントンの譜)(昭和2年5月23日禁止)
(一)
黒旗高く打ち振って 凄惨悲惨の絶叫を
馬蹄の下に踏みにじる 凶暴無惨の資本主義
(二)
箱根颪吹き荒み 相模湾上浪高し
相武原野に血はほとばしり 茲に起ちたるレボリスト
(三)
爆弾四方に飛び散りて 一揆暴動勃発す
焔は高く燃えあがりて ブルジョアジーの首は飛ぶ
(四)
〇〇師団全滅し 〇〇本部も陥落し
〇〇〇も亦陥落し 今こそ祝はん大革命
『日本の革命歌』に載っている「テロリストの歌」と若干似ているところもあります。アナキストの歌の項目に載っているどの歌よりも、激烈な内容です。
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